クジラの死骸をダイナマイトで爆破したら、脂身の雨が降った話。1970年オレゴン州の伝説

ようこそ、歴史の袋小路へ。失敗学の博物館、館長のオパビニアです。

前回は、ロンドンの街中でビルが太陽光を集めてしまい、高級車を溶かしてしまった「ウォーキートーキー」の話をしましたね。物理法則を無視したデザインが招いた、熱い悲劇でした。

さて、今回はガラッと変わりまして、アメリカの海岸へ皆さんをお連れしましょう。
今回のテーマも、ある意味で「物理法則」と「量の計算」を間違えた話なのですが、その被害は熱線ではなく……「脂身と腐敗臭」です。

皆さんは信じられますか?
「邪魔なクジラの死骸を片付けるために、ダイナマイトで爆破して消し去ろう」と本気で考え、実行してしまった男たちがいたことを。

しかも、その結果が「クジラが消滅した」のではなく、「クジラが空から降り注いだ」としたら?

今日は、1970年のオレゴン州で起きた、伝説的な「爆発するクジラ」のお話をしましょう。ハンカチ……いえ、傘のご用意を。

巨大な漂着物、どう処理する問題

舞台は1970年11月、アメリカ西海岸、オレゴン州フローレンスの海岸です。
冬の足音が近づくこの静かな浜辺に、とんでもないものが流れ着きました。

体長約14メートル、推定体重8トン(約7,300kg)のマッコウクジラの死骸です。

最初は珍しがって見に来ていた住民たちも、すぐに鼻をつまんで逃げ出しました。腐敗が進み、強烈な悪臭を放ち始めたからです。
さあ、ここで困ったのが地元当局です。この巨大な生ゴミをどう処理すればいいのでしょうか?

通常であれば「切断して埋める」か「焼却する」のがセオリーです。しかし、この地域を管轄していたのは、なぜか海洋生物の専門家ではなく、オレゴン州道路局(現在の運輸局)でした。

当時の法律では、海岸は「公共のハイウェイ」扱いだったため、道路を管理する彼らに白羽の矢が立ったのです。
道路局のエンジニアたちは頭を抱えました。
「埋めるにしても砂浜が柔らかすぎて重機が沈むかもしれない」
「焼くには巨大すぎる」

そこで、現場責任者のジョージ・ソーントン氏は、ある「画期的なアイデア」を思いつきます。

「ダイナマイトで吹き飛ばしてしまえばいいのでは?」

天才的な(はずの)作戦計画

ソーントン氏の理屈はこうです。
「クジラを細かく粉砕すれば、あとはカモメやカニたちが綺麗に食べてくれるだろう。海鳥にとってもご馳走になるし、我々の手間も省ける。一石二鳥だ!」

彼は大真面目でした。
悪意など微塵もありません。むしろ、自然のサイクル(カモメ)を利用した、エコロジーな解決策だとすら思っていたかもしれません。

問題は、「どれくらいの火薬が必要か」という点です。
彼らは相談の結果、なんと
半トン(約450kg)、20ケース分のダイナマイト
を用意しました。

実はこの時、爆発物の専門家である退役軍人が「スティック20本(数キロ)で十分だ、それ以上は危険だ」と忠告していたという説もあります。しかし、道路局側はこう考えました。
「いやいや、巨大なクジラだぞ? 中途半端に吹き飛ばして大きな塊が残ったら、カモメが食べにくいじゃないか。念には念を入れて、ドカンと行こう!

こうして、運命の11月12日、海岸にはダイナマイトが設置され、テレビ局のカメラマンや野次馬が集まりました。彼らは安全のため、クジラから400メートルほど離れた砂丘の上に陣取りました。
誰もが、クジラが霧のように消滅する瞬間を期待していたのです。

空から来る「肉片の爆撃」

カウントダウンが始まりました。
3、2、1……点火!

ズドォォォォォォン!!

ものすごい爆音と共に、砂と水、そしてクジラの体が一気に空高く舞い上がりました。
高さ30メートルとも言われる巨大な水柱(と肉柱)が立ち上り、現場の人々は「おおー!」と歓声を上げました。

しかし、その歓声はすぐに悲鳴に変わりました。
爆風が収まった後、空を見上げた人々は気づいたのです。
「何か」が、こちらに向かって落ちてきていることに。

パラパラ……ボトボト……ドスッ!! べちゃ!!

空から降ってきたのは、霧状になったクジラではありませんでした。
ゴルフボール大から、テーブルほどの大きさまである、腐ったクジラの脂身の塊だったのです。

「逃げろー!!」「うわあああ!!」

見物人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑いました。
腐敗した脂身の雨が、容赦なく降り注ぎます。その臭いは強烈で、服についたら一生取れないレベルの悪臭です。
カメラマンは映像を撮り続けましたが、レンズにもベチャリと肉片が付着しました。

そして、極めつけの悲劇が起こります。
少し離れた駐車場に停めてあった、新車のオールズモビル
その屋根に、タイヤほどの大きさの巨大な肉塊が直撃したのです。
車はまるでプレス機にかけられたように、屋根がベッコリと潰れてしまいました。

誰も食べない、誰も帰れない

爆煙が晴れた後の海岸は、まさに地獄絵図でした。
あたり一面に散らばる腐肉。充満する耐えがたい悪臭。

そして何より皮肉だったのは、爆心地に残されたものでした。
ダイナマイトの量が多すぎたため、クジラは粉々になるどころか、巨大な尾びれの部分などはほとんど無傷でその場に残っていたのです。

さらに、「掃除屋」として期待されていたカモメたちはどうなったでしょうか?
すさまじい爆音に驚き、恐怖のあまり一匹残らず彼方へ飛び去ってしまいました。

結局、道路局の職員たちは、悪臭にまみれながら重機を出し、残った死骸や飛び散った破片を一つ一つ拾い集めて埋める羽目になりました。
爆破前よりも状況が悪化するという、完璧な「骨折り損のくたびれ儲け」です。

失敗学の教訓

このあまりにもダイナミックな失敗から、私たちは何を学べるでしょうか。

1. 「オーバーキル(過剰攻撃)」は新たな問題を生む
「念のため多めに」という心理は理解できます。しかし、問題解決において「適量」を見誤ると、解決どころか被害を拡大させます。
仕事でも「念のため全員CCに入れるメール」や「念のため全部作り直す資料」が、かえって混乱を招くことはありませんか?
半トンのダイナマイトは、誰がどう見ても「やりすぎ」でした。

2. 解決策の「副作用」をシミュレーションせよ
彼らは「クジラを消すこと」に集中しすぎて、「消えたクジラがどこへ行くか(物理的な落下地点)」の計算がおろそかでした。
「爆破すれば消える」というのはテレビゲームの中だけの話です。現実には、質量保存の法則に従って、物体は移動するだけなのです。

3. 専門外の領域には敬意を払う
道路を作るプロフェッショナルである道路局が、生物処理という専門外の仕事に「土木工事のノリ」で挑んでしまったことが最大の敗因かもしれません。
餅は餅屋、クジラはクジラ屋(?)に任せるべきでした。

終わりに

この事件は地元ニュースで報じられたものの、しばらくは忘れ去られていました。
しかし、インターネットの普及とともに当時の映像が発掘され、今では世界中で最も有名な「爆破失敗動画」として愛されています。

 

それでは、また次回の歴史の袋小路でお会いしましょう。
(今度はダイナマイトを使わずに)読者登録をお願いします。